石巻まちの本棚の3・4月の展示は、体験作家中野純さんによる「月夜のある生活」をテーマに選んだ本棚。月や闇に関わる興味深い本がならんでいます。
4月4日には、中野純さんによるトーク「日本人はこうして月を楽しんだ」と中野さんがガイドした「石巻・牧山ムーンライトウォーク」が開催されました。ここでは石巻まちの本棚スタッフがそのイベントの模様をお伝えします。
トーク「日本人はこうして月を楽しんだ」
古来より月を愛でてきた日本人。街から闇が失われ,その風習がなくなってしまったと思われるわたしたちの生活の中にも,実は,少し思いを広げると,「月の国」日本の証しが残っていることを中野さんに教えてもらいました。
写真:渡辺征治
『出た出た月が~』「月」といえば,この歌。現代の私達は,月を親しむ中秋の名月のときでさえ,月を一寸「見る」だけになってしまいましたが,月が出てくるのを「待っている」歌との指摘に,なるほどと目から鱗でした。そして,「三夜待ち」という言葉や,今でも各地に残る「二十三夜堂」も見せていただき,夜中に月を待つ昔の人の楽しみを垣間見ることができました。なんと佐賀では,コンパのことを「三夜待ち」と言っているとか・・。
米国アリゾナの高地に滞在したときのすさまじい月射しの体験談から,湿潤な日本だからこそ,月が愛おしいと思えるのだなあと「月と水のおぼろ文化」を再認識しました。
その他にも,月傘やムーンボー(月虹)等の月遊びを紹介していただきました。中野さんの著書『図解「月夜」の楽しみかた24』には,さらにたくさんの月遊びが紹介されています(期間中は石巻まちの本棚でも販売中)。「月の国の末裔」として,月光を楽しみ尽くす月遊びをさっそくしてみたくなりました。
石巻・牧山ムーンライトウォーク
まちの本棚から,そのまま歩いて牧山登り口へ。そこから参加の方と合流して,零羊崎神社の参集殿へと向かいました。夕暮れに山へ向かうというのは,想像以上にわくわく感があり,初めてお会いした方とも,小さい頃の遠足や以前参加したナイトウォークの話などで盛り上がりました。
途中,ウグイスの声,木々の芽吹き,わき水等,牧山の春を感じることができました。参集殿の大広間をお借りし,日和キッチンさんの特製月見弁当とおくずかけを美味しくいただき,まずは,一息。
お腹が満足したところで零羊崎神社に移動し,神社成立の経緯や、震災の時の避難所としての役割を果たしたお話を宮司の櫻谷さんからお聞きしました。
▼そして月夜歩きへ
零羊崎神社を出ていきなり,山中に入りました。「危ないときだけ懐中電灯をホタルのようにつけて」と教わりましたが,闇歩きになれていない私達は,絶対無理!と足下を照らしながら,転ばないように必死に中野さんについて行きました。小さな祠を巡りながら闇の中を歩くうちに,次第に現世を離れていくような・・。
月食が始まり,さらに歩いて行くと少しずつ昇ってきた月に照らされ,月の明るさを体感しました。まるで,大きな街灯がそこかしこにあるようで,振り返るとその先には月があるのです。中野さんがトークでおっしゃっていたとおり,月でできる影はとても存在感がありました。途中,中野さんが闇の中で見えなくなる色は,「赤」という話をしてくださり,「ここには何があるでしょう。」と立ち止まりました。目を凝らしても見えるのは,月明かりに静かに光る葉だけでした。その後,懐中電灯を当てると,なんとそこは,満開のツバキが群れていました。
▼月見団子と月待ちタイム
最後の最後,今から皆既月食が見られるというときになって,雲が厚く垂れ込めてしまいました。月見団子を食べ,しばらく草原に寝転がり,月が雲間から現れるのを待ちました。春の草は優しく,体中が夜の山に溶け込んで行くようでした。月を浮かべて飲んで寿命を延ばす「飲月」は次回へ持ち越しとなりましたが、まさしく,みんなで「月待ち」を楽しんだ夜でした。
▼夜の開館
そしてムーンライトと同時刻、まちの本棚では皆既月食の夜の開館を開催しました。天体望遠鏡による皆既月食の観察や、月見酒の実践など月とたっぷり遊んだ一日になりました。